080.オリジナルライフ


“the point of no return”


 ……その時は、思い掛けない程唐突にやって来た。
 まず脳波が、次に心臓が止まった事を知った。それがスイッチだった。そして“彼”は、2度目の誕生の時を迎えた。

 …………

 “彼”が目覚めたのは、ラボの地下の格納庫だった。彼は普段“彼”をそこにしまっていた。
 視界は真っ暗だった。しかしそれはヒューマンの可視光域で見ていたからで、“彼”はそれに気付くとすぐにセンサーを切り替えた。
 赤外線域で見ると、幾つかの明るく見える領域があった。しかしその数は過去の起動実験の時と比べ、明かに少なかった。それも当然か、“彼”は思った。本来の主である彼がいないのだから。
 ──とりあえず、ここから出ようかなあ。
 そんな事を思いながらも、その前に何かやるべき事は無いかと考えてみる。真っ先に思い付いたのは“あの人”に連絡を付けて行動の自由を得る事だった。クラッキングが彼──引いては“彼”の流儀に反する以上は“あの人”に話を付けてやって貰った方が後々面倒も無く、何より安全だった。そうして早速リンクしようとして、“彼”はある事に気が付いた。

 システム内部に接続する為の回線が、切断されたままだった。

 …………

 彼は“彼”のボディを最新の物にする時や新たな機能を取り付ける時のみ、格納庫から取り出しその作業を行なった。ただ“彼”のコアに手を加える時──OSの更新等をする時だけはしまったまま、全ての接続をカットしてやっていた。そして彼が何処かへ呼び出される直前までここでしていたのがそのコアに手を加える作業、中でも彼の記憶のバックアップと人格マトリクスのコピーをとって変換する作業だった。
 そう、作業中だったのだ。さあデータを更新しようとしたその時に作業は中断され、その結果彼が死んで“彼”が目覚めたのだった。
 だが、更新中で無かったのは幸いだった。そうなったら恐らく“彼”が起動する事は無かっただろう。気を取り直した“彼”は別の方法で接続しようと、非常用のアンテナを展開した。
 格納庫内は狭いので、当たらない様に調整する。完全に広げられないのが正直厳しいが、それでも彼のメインコンピュータに接続する程度の事ならは出来る筈だった。そもそも赤外線域でそこからの熱源を確認出来る以上、起動しているのは間違い無かった。

 処が、どういう訳かアクセスそのものを拒否された。

 奇妙に思いながらも“彼”は手持ちのパスワードを片っ端から試したが、やはり全て拒否された。
 ──新しいパスを今回更新するつもりだったのかな、それとも……
 1番あって欲しくない最悪の可能性までをも計算しつつ、“彼”はハッキングの準備を開始した。


 ←79/80 - 2

 只今挑戦中SaGa Frontier

 topmain menuaboutchallengelinkmail