07 - 記憶容量


“探し物は何ですか”

 その日は、同居人の叫びで目が覚めた。
「無い!」
 まーたやってるよコイツは、そんな事を寝ぼけた頭でぼんやり思いつつ、あくびをしながら俺は起き上がった。
「今度は何だぁ?」
「メモリチップ!」同居人は必死の形相で俺の方に振り返って言った。「ゆうべ消す前に移しといたメモリが無いんだよ!」
 外付きメモリーに記憶を移せるようになった現代、必要な記憶はそういったチップやディスクにバックアップの1つや2つは取っておくのが当たり前になっている。その上で脳に残った記憶を消してもいいし、必要なら改めて入れ直してもいい。勿論他人の記憶を入れる事も出来るが、表向きには倫理的に問題アリって事で推奨されてない。
 尤も、幾らバックアップが取れると言った所で忘却、っつーか物忘れの問題からは逃れられない。だからコイツの様なうっかり者がいなくなるって事は決して無い。
 そう、決して。
「お前なあ、いっつもそこらにほっぽっとくんじゃねえっつってんだろ? だから失くすんだよ」
 机の上を荒らし、引き出しをひっくり返して行くその様に、探すっつーより散らかしてどーするよなどと思いつつ俺は言った。
「だから置いといたんだってばっ。失くしちゃマズイのだったし、失くすとお前に怒られるしっ」
「分かってんなら失くすなよ。っつーか、一体何放り込んだんだ?」
 しかしそう聞いた途端、同居人は俺に背を向けたまま動きを止めた。
「──そっ、それは……ッ」
 その上声まで引きつっていると来た。動けばそれまでやたらぎこちない。その態度に、俺は非常にイヤなモノを感じた。
「おい、何を入れてたんだ?」
「いや……その──……」
 俺は右手を伸ばすと、後ろを向いたままの同居人の肩をがっちりと掴んだ。恐る恐る振り向いた同居人の顔に浮かぶ怯えの色が更に強くなったのを俺は見逃さなかった。
 そりゃそうだろう。何せ俺が向けていたのは全開の笑顔だったんだから。
「そら、言ってみろよ? 話に合わせてきっちり怒ってやるから」
「結局怒るんじゃないか!?」
「それだけの事をしてるからだろーが」
 努めて笑顔を崩さず、代わりにきつく握った拳を見せながらそう言うと、流石に観念したのか同居人は肩を落とすとこう答えた。
「……お前の所にあった…………アレのプログラムとデータ……ついこっそり…………」

 ……。
 …………。
 ………………ぷちん

「こンのばかたりゃ────ッ!!!」

 俺の拳が、同居人の脳天に炸裂した。
「どうも昨日探しても見当たらねえと思ったらお前かッ!? 人のモンを勝手に持ち出すなと言っただろーがッ!」
「だだだだってお前がやってるの見てたら面白そうだったからついっ」
「馬鹿野郎、ありゃまだテスト中のバグだらけのヤツだ、そんなのお前にやらせられる訳があるか!」
「ぇえ!? 何でだよ!?」
「何やらせても面白いしか言えない上にバグにも気付かねえで進める奴にテストプレイヤーが勤まるかボケ!」
「うわ、ヒドッ。…………」

 結局、俺まで一緒に探すついでに家中の片付けと掃除をするハメになったのは言うまでも無い。
 メモリチップ? ……出て来たともさ、何故か俺のポケットの中からな……。
end
よんだよ


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 只今挑戦中あとがき?

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