“ここではない、どこかへ”


prolog

 ヨークランドは、祭の季節を迎えていた。
 通常クーロンにしか航行されない客船が各地のリージョンとの間を往復し、常夏のリージョンから来たと思われる浅黒い肌の者や到着早々カメラ片手にあちこち撮りまくる者、迷子の子供やそれを探す親、きゃわきゃわと華やかに騒がしい女性達──などなどそんな観光客で発着場内は溢れ返っている。
 しかしそんな中で、様子の異なる3人の少年が出発ゲートの前で立ち話をしていた。
「これでやっと静かになるね」青みがかった黒髪の、小柄な少年が言う。
「あ、ヒドイなあ」短く刈ったふわふわの金髪の少年が言う。彼だけが大きな荷物を肩に提げている。「こーいう時は“さみしくなる”ってーのがトモダチだろ?」
「誰がお前にそんなん言うかよ」藍色の髪に眼鏡を掛けた、がっしりした体格の少年がぼそっと呟いた。
「アナタまでそんなコト言うなんて……信じてたのに、ヒドイっ」
「気色悪いオカマ言葉を使うなっ!」
 しなを作り“うるうるポーズ”を取る金髪の少年に、眼鏡の少年はヘッドロックをかける。小柄な少年はそれを見てけらけら笑いながらもふと真面目な顔に戻ると、金髪の少年に言った。
「でも、何でよりによって“今”なんだ? もうすぐ命日なんだから、それまで待ったって良かったじゃないか」
 その言葉に2人の少年の表情も翳った。眼鏡の少年の頭にもそれはあったし、金髪の少年もそれを分かっていた。
「……もうすぐ1年だもんな、そりゃわかってるさ」金髪の少年は言葉を選ぶ様にして言った。「でも、だから俺にはそれまで待てないんだ」
「お前、やっぱり──……」
 眼鏡の少年はそれ以上言えなかった。場内アナウンスが、金髪の少年が乗る予定のシップの搭乗時間が来た事を伝えたからだ。
「おっと、もう行かなきゃ」金髪の少年は荷物を抱え直し、2人に言った。「見送りありがとな。落ち着いたら連絡入れるよ」
「気を付けてけよ」眼鏡の少年が言う。
「騒ぎ過ぎて迷惑かけるなよ」
「ひと言多いってのっ!」
 小柄な少年の言葉に悪態を付くと、金髪の少年は人込みの中に消えて行った。
 少年は、親友達の方を振り返りはしなかった。


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