008.憂鬱


“グラムソードの伝説〜この胸の空しさを〜”

 博士が新しい武器を開発したと言う事で、呼び出された俺はその研究室に顔を出した。
「こんちわー」
「お、やっと来たね。待ってたわよー」
 全開の笑顔で博士は俺を迎え入れる。この博士、その役どころにしては偏屈な所が無く、非常に人当たりが良くそして新しい発明を見せる時はいつもこうなのだが、何故か俺は頭の中で危険を知らせるサイレンが鳴るのを聞き取っていた。……が、気のせいだと思って話を進める事にした。
「で、新しい武器って何スか?」
「これよ!」
 博士がそう言って自信たっぷりに俺に見せたもの、それはテーブルに無造作に置かれたひと振りの剣だった。
「凄いでしょ? グラムソードって言うの!」
 ああ、確かに凄いとは思う。しっかりした造りの刀身に、地味過ぎず、華美にもなり過ぎない程度に施された装飾。
 ただ、コレが異様に小さいのだ。虫眼鏡で確認させられる程小さいって。
「えーっと……」
 返事に困って、俺は視線をさまよわす。
「随分微妙な反応ね」
 博士はそれが御不満だった様だ。腰に手を当てぷりぷりと頬を膨らましたんだが……似合わない事は無いが、そんなかわいらしいポーズを取る前に年を考えて下さい。40目前でしょーが。
 勿論そんな事は口にせず、困り果てた俺は念の為聞いてみた。
「いやだってどうやって使うんスか、コレ」
「不満なの? きっちり1グラムに作るの、大変だったのよ!」
「だから“グラムソード”ですかい!」
 そんなムチャクチャな。ナントカ神話の英雄の愛剣の名が泣くぞ!
「そんなに肩を落とさないでよ、キミならきっと使いこなせるわ!」
「……その状況があればの話ですがな……」
 博士が明るく俺の肩を叩く。だが俺は、呆れ切って返す言葉も無かった。とは言え、コレでも天才的頭脳の持ち主である事は確かだし、その発明品で俺達の戦いのサポートをしてくれている事に変わりはないのだ。俺はそう自分に言い聞かせてこの微妙な発明品の事を納得しようとしたが、この空しさだけは消しようが無かった。
 多分、コレの製作費用も開発費から出てるんだろうなあ。
 そーすっと、後で上から絞られるのは俺なんだろうなあ。このヒトはそーいう所の立ち回りも上手いからなあ。
 前にもあった、似た様な出来事が頭をよぎる。これで憂鬱にならない方がおかしい。おかしいに決まってる。
 しかしその後、ミクロの決死圏の如く身体のサイズを小さくされて戦うハメになる事を、この時の俺は知らなかった──その上このグラムソードが、その小ささ故に凄まじい切れ味を誇る事を。……もっとも、だからと言ってこの空しさが解消されたかと言うと、決してそんな事は無かった。ああ、無かったともっ!
end
よんだよ


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 只今挑戦中あとがき?

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