030.嗚咽


“I'm here.”

「……うまく、いかなかったのか……ッ!?」
「……貴種守護獣《ガーディアンロード》に……届きませんでした……」
 光が収まり、辺りが静かになる。ただホコリっぽい風が吹きつけるだけの、元の祭壇に戻る。
 僕はただ、立ち尽くしていた。涙は出なかった。ただ、悔しかった。みんなの愕然とした会話さえ、何処か遠くの世界の出来事のように聞いていた。
「ごめんよ……オイラ、知らなかったとはいえ、無責任なこと、言ってしまったね……」
 そしてハンペンが申し訳なさそうに謝るのを聞いて、僕はただ首を振った。
「ハンペンが悪いんじゃない──ただ、あの時の事を思い出すと、どうしても──……ッ」
 左手で目を覆う。何故か鼻の奥がツンとして、それ以上は言葉にならなかった。
「そいつは、俺たちと出逢う前のことなのか?」
 ザックがそう聞いてきても、僕は口を開く事が出来なかった。無言で頷くのがやっとだった。
「……あー、俺が言うのもなんだが」だけど言いにくそうに、ザックが言った。「がさつな俺なんかじゃ、役に立たないかもしれないけどよ──……」
 ザックが頭を掻くのが影の動きで分かった。僕は頷いた時にそのまま俯いてしまったから──どうしたらいいか分からなくて、顔を上げられなかったんだ。
「聞いてやるくらいなら、できるかもしれないぜ。その時が来たらでかまわない。だから……」
「……ったら……」
「たまには──って?」
 だけどそれを聞いているうちに、それまでずっと抑えてきたモノが溢れて口を付いて出て来た。
「じゃあ何で僕が生まれる事を許したんだッ?!」
 例えばそれは、貴種守護獣達からの言葉への抑え切れない憤り。
「本当は──僕だって恐いんだ。僕が封印された時暴走因子が見当たらなかったのは、その時はまだ発現していなかっただけなんじゃないかって──もしかしたら、この先何かが起こって暴走するかもしれないって」
 ずっと抱えてきたどうしようもない、どうにも出来ない恐怖。
「だけど生まれてきた事を──造り出された事を、後悔したくは無いんだ」
 それでも全てを否定したくなかった。こんな自分でも確かに愛してくれた人がいた。好意を持って接してくれる人がいる。
 例え戦う為だけに造られた所から始まっていても、その力でみんなを守る事が出来るのなら。
 この力の為にどれだけ人々から恐れられてもいい。守護獣達から許しがたい存在と思われていてもいい。
 だからせめて大切な人達を──そして大好きなじいちゃんが愛したこの惑星を守らせて欲しい。
「だからどれだけ否定されても構わないッ、僕は確かにここにいるんだ!」
 さっきまで貴種守護獣達がいた空《くう》に向かって僕は叫んだ。もう迷いなんて無かった。
 この惑星の輪廻の輪から外れた存在でも。禁忌とされた技術によって生み出された存在でも。

 僕はここにいる。

「……ッ、ぁぁぁああああッ!」
 そして僕はついにこらえ切れなくなって泣き出してしまった──声を上げて。
 そう、僕はここにいるんだ。それだけは誰にも否定させない。

 …………

 しばらくすると頭の上に手が置かれて、そのままぽんぽんと軽く叩かれた。それからため息を付きながら、ザックが言った。
「……大体お前は抑え過ぎなんだよ。普段からもう少し吐き出していいんだぞ? お前はまだ、それが許される年なんだから」
「そうそう。ザックみたいにいい年になってもまだ年中本能のままに突き進んで迷惑掛ける大人にならない為にもそうしときなよ」
「言いやがったなこの短足ッ!」
「わーッ、亜精霊虐待反対ッ!」
 いつもの様に仲良くケンカするザックとハンペンを見て、僕はセシリアと一緒につい吹き出した。そしてセシリアは僕の方を見ると、微笑みながら言った。
「でも、本当に我慢しなくてもいいのですよ? 私達はどんな事があっても、例えどんなに遠く離れた場所にいようとも、心はロディのそばにいますから」
 それは今まさに僕が欲しかった言葉だったので、僕は一瞬何と応えていいのか分からなくなった。もしかしたらそれはこの左腕を再生した時に昔の事や心の奥を見られていたせいかもしれない──あの眠りの中で僕を夢魔から助けてくれたのはセシリアだったから。
 だけど嬉しかったのは本当だから、僕はさっきとは違う意味で鼻の奥がツンとする感じを覚えながら、どうにか笑顔を作って答えた。
「……うん、ありがとう……」
 するとセシリアが顔を赤くするので、それに気付いたザックが今度はセシリアに矛先を向けた。セシリアは更に顔を赤くして反論して、そんな2人にハンペンが僕の頭に乗っかって呆れた様に肩を竦める。
 僕はこんな時間が続けばいいと心の底から願わずにいられなかった。みんなといる時間は、確かに僕にとってかけがえのないものだったから──僕が造られた命だと言う事を忘れていられるから。

 …………

 みんなが揃って笑っていられる限り、きっと暴走因子が発現する事は無いと信じてる。
 例え発現しても、止めてくれると信じられる──それはあまりにも他力本願で自分勝手な思いかもしれないけれど。
end
よんだよ


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 只今挑戦中あとがき?

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