057.イントロ


“in the daydream〜Einleitung das Dinge《事の始まり》〜”

“……こうして悪魔は倒され、まだ完全に復活しきっていなかったルシェイメアは再び地の底に沈み……”
 吟遊詩人がマナの英雄の物語の1つ、“ルシェイメアの復活を阻止した勇者”を讃える詩を吟じている。バドはそれをパブの隅で聞き流しながら、当の本人達との日々を思い返していた。
 そう、本人達──こうして各地で語られている物語は全て“1人の”英雄がそれを成し遂げた事になっていると言うのに、バドの記憶には“3人の”人物の姿があるのだ。
 一人は今語られていた、ルシェイメアの復活を阻止した勇者。
 一人は珠魅の一族の危機を救った、珠魅の救世主。
 一人は魔法の様で魔法でない“術”で知恵のドラゴンの内2体を屠り、そして復活をもさせたドラゴンキラー。
 そして各地で語られる英雄は“長い金色の髪の女性”だったとされているが、本当に女だったのは“ルシェイメアの復活を阻止した勇者”のみ、後の2人は男でしかも1人は金髪ですらなかった。ついでに言えば確かに3人共髪は長めではあったが、伝説で語られる程に長髪だったのは“ドラゴンキラー”ぐらいで、後の2人は肩より少し長い程度だった。
 更に言うならバドは今、双子の片割れであるコロナ共々“英雄の弟子”等と呼ばれているが、実はそれもある意味正しくないのだ。コロナは“英雄の弟子”と言うよりは“ドラゴンキラーの弟子”と言うべきであり、そしてバドは珠魅の救世主に何が何でも魔法で勝つべくその隙を狙ってひっついている事が多かったが、いわゆる“師匠と弟子”の様に3人から直接何かを教わったり学んだりした覚えは無い。
 何故、こうも違ってしまったのか。
 実際に起こった出来事と、語られる物語。その内容の乖離。
「違うって言うより、ごちゃごちゃに混ざってるってカンジだよなあ」
 相棒のクミンはバドの語る英雄達の話を初めて聞いた時、そう言った。元は人間だったが今や黒ダイヤの珠魅となってしまったこの相棒も、英雄達の中でまともな面識があるのは珠魅の救世主ぐらいだ。
「で、お前は別にそれを正そうと思ってる訳じゃないんだろう?」
「………………まあな」
 クミンのセリフに、バドは不承不承頷く。ここまで“英雄”のイメージが1つの姿で広まってしまった以上、どれだけバドが違うんだと叫んだ所で誰もが信じるとは思えない。せいぜい“異聞”として世に残る程度だろう。
「でもまあ、最近それでも良いかなって思う様になってきたんだ」
「へえ?」
 驚いた様にクミンは相槌を打つ。
「それを知ってるのはオレやコロナの様な直接面識のある奴だけなんだけど、それでも3人いた事は事実なんだ。それって何かさ、世界の秘密を知ってるみたいで特別なカンジがしないか?」
「……ははあ、成程な」
 バドのセリフに、クミンはバドと一緒に実に愉しそうな悪ガキの笑みを浮かべる。そしてバドは更に続ける。
「だから例え異聞録扱いされてもいいから、あの3人の事を書き残そうと思うんだ。勿論、コロナやオマエにも手伝ってもらうぜ?」
「はあ?! 何で俺まで手伝う必要があるんだよ」
「だーれのおかげで今生きてるんだよ」
「……はい、救世主サマのおかげでございます」
 それを言われてクミンが反論出来る訳が無い。ただ頭を下げるしかなかった。
 そしてバドは立ち上がると伸びをしながら言った。
「よーし、そんじゃまずガトのダナエさんのトコでも行ってくるか!」
「はあ?! それこそ何でだよ!」
「いい加減もうトシだからに決まってんだろ。他はドラグーンだのお前の様な珠魅だので幾らでも長生きするような連中だからともかく、ダナエさんは普通の人なんだぜ? 死んじまってからじゃ遅いだろーがよ」
「そーいう事かい」
「それじゃ早速行くぜッ。1番有名な話だからなー、きっと全然違う話が聞けるぜー、多分」
「あー、それは俺も楽しみだなあ。さっきの吟遊詩人が語ってたようなのしか知らないしな」
 こうしてバドとクミンはパブを出ると早速ガトへと道を定めた。
 そしてこれこそが、予言されたバドの冒険譚の始まりだった。
end
よんだよ


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 只今挑戦中あとがき?

 聖剣伝説Legend of MANAin the daydream

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