082.消えた足跡


“唐突すぎた終焉”

 その飛行機事故のニュースは、瞬く間に世界中を駆け巡った。
 事故が起きたのは当時内戦中だった東欧行政区のやや西側で、本来その便が飛ぶ筈のコースからは大きく外れていた。更にそこは当時最も行政府に対する抵抗運動が激しかった事、墜落地点にある森は抵抗運動家達のアジト、もしくは本拠地があると目されていた事もあって、事故原因に付いて様々な憶測が流れた。
 だがこの事故に付いて最も話題を提供したのは、そこに乗り合わせていた乗客の方にあった。その乗客名簿には<地球>《アース》だけでなく<遠来>《ファーレン》でも人気を誇っていたロックバンド“the Durandal”のメンバーとそのマネージャーの名があり、3人の生存者の中にそのリーダーでベース担当のオリバー・クロフォードの名があった事、そして何よりボーカルのリュー=エドワード・ノースの遺体だけが遂に確認されなかった事からである。

 クロフォードの証言によると、ノースはその隣の通路側の席に座っていたと言う。残り2人のメンバーであるギターのキール・スヴェンドルフとドラムスのスティーヴ・クーガーはその後ろにいたと言い、そしてその2人や周辺の乗客の遺体の損傷は特に激しかった。
 何が生死を分けたのかはともかく、ノースの遺体だけが発見されなかったのは紛れも無い事実なので、その死因から遺体の行方等が、特にゴシップ系のメディアで書き立てられる事となった。更にはクロフォードが重体ではあるものの生き残った事から、実は生きていて抵抗家、或いは行政府の警備隊等によって拉致されているのではないか等という様な憶測まで流れた。
 ノースは一体どうなったのか? 事故から10年以上が経過した今でも、それは時々話題に上る。メディアだけでなく、ファンの間だけでもなく、誰かがあの事故を記憶している限り思い出した様に語られ人々の想像力を刺激する。

 だが活動が中断された事によってその名声は揺るぎないものとなった──これを皮肉と言わずして、何と言おうか?
end
よんだよ


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 只今挑戦中あとがき?

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