084.塞がれた穴


“breakdown〜real or delusion?〜”


 しかし面倒事と言うのは続くもので、ツヴァイクに着くなり店に行ってみると薬がまだ届いていなかった。何でももうとっくに届いていていい筈の薬が、まだポドールイから届かないと言う事だった。
 それを聞いた時のエレンの剣幕は、なかなかのものだった。
「ちょっと待ってよ、冗談じゃないわよ。こっちが注文したのは冬前なんだよ? なのにまだ数が揃ってないってどういう事よ」
「仕方無いでしょう、材料が揃わなくて作りたくても作れないんですから」
「揃わないったって、半年近く前の注文がこなせない程材料が足りないって事はないんじゃない? それともそんなに他からも注文されてたワケ?」
「いやまあ、それもあるんですが、その」担当だと言う中年の男は、かなり気圧されたらしく汗をかきながら言った。
「だからってこっちを軽く見られちゃ困るのよ。ウチはね、モンスターや盗賊共と戦いながら土地を開拓してんのよ。薬は必需品なの。こんな城壁に護られて暮らしてるのとはワケが違うの。術士だってほいほいいるワケじゃないし、いたところで無限に術が使えるなんて事は無いんだから」
「それはまあ、ごもっともな話で」
「分かってんならちゃんと仕事しなさいよ。それともまさか、取りに来たのが若くて経験が浅い連中だったからってバカにしてんじゃないでしょうね」
「い、いえ、そんな事は、決して」
 しかしそこで他の社員がやって来て、持って来た紙を見せられると男は顔色を青くした。そして慌てて部屋を出て行こうとしたが、流石にその前に俺達を帰らせるのだけは忘れなかった。
 気が抜けて、何だかくたびれた気分になった俺達は、とりあえず宿を押さえた後パブで腹ごしらえをする事にした。
「……どーする? これから」出されたザウアークラフトをつつきながら、エレンが聞いて来た。
「そうだな……」手にしたスプーンをスープの中に突っ込んだまま、頬杖を付きながら俺は言った。
「1番いいのは荷物が来るまでここで待つって事だろうけど、それだとロアーヌで種を受け取るのが遅くなるしな……」
「こんなコトなら、種の方はユリアンに任せれば良かったかもね」
「まさかこんな事になるとは思わなかったしな〜〜……」
 揃ってため息をつく。そうでなくても、ポドールイだったらシノンから直接行った方が早いのだ。……但し、モンスターが出没する森を抜けなければならないが。
「ったく、帰ったら母さんに直接ポドールイの方と取り引きする様に言おうかな」
「いや、多分それは無理だと思うよ」俺は首を振った。
「何でよ?」
 突っ込まれて、俺は本から得た知識のうけうりをそのまま口にした。
「確かこっちで薬を精製しているからさ。向こうでは材料になる薬草の採取や栽培と基本的な精製しかやってない筈だ」
「……つまり、デキがいいのはこっちじゃないと手に入らないワケね」
 俺の説明を聞いて、エレンはげんなりした様に言った。しかしそこで何かに気が付いたのか、不意に真面目な顔になった。
「エレン?」
「……てコトはさ、結局あっちから素材の薬が届いても、ウチで頼んだレベルじゃなかったら、それが出来るまで待たなきゃならないって事だよね」
 その言葉に、俺は頷いた。「まあ、そういう事になるな」
「じゃあ、ほんっっっとにしばらくここでぼーっとしてろっての?」
「待つしかないなら、それしかないんじゃないか」
「宿代、どーすんのよ」
 今度は俺が頭を抱える番だった。
「……それもあるんだよな……」
 ある程度懐に余裕を持たせて来ているとはいえ、ユリアンがカゼをひいた時点でその殆どが無くなっていると言っていい。そうでなくてもツヴァイクはこの辺りでは大きい都市なので、あまり長くなると宿代自体もバカにならなくなる。はっきり言って、街にいるにも関わらず野宿するというのは──流石に、それだけはかなり避けたい所だった。
「こんなトコでこんな理由で路頭に迷うのは、かなり情けないよね」
「……まぁな」
「それならさ、いっそポドールイまで取りに行かない?」
 思わず俺は耳を疑った。
「はぁ?」
「だってこんな所で時間もお金もムダ使いするぐらいなら、その方がいいじゃない。雪が残ってたりしてあんまり道はよくないかもしれないし、モンスターだけじゃなくて目が覚めたばっかのクマとかも怖いけどさ、とりあえず行くだけ行ってみようよ」
 この時、俺は首を振るべきだったのだろうか。この件で俺に対して周囲から、そしてエレン自身からも期待されていたのは、一旦目標を決めると周りが見えなくなる程とことん突っ走ってしまいがちなエレンの歯止めになる事だったと思う。でも結果から色々言われても困る。時間の問題、資金の問題、その他諸々を含めて考えた上で、俺はエレンの提案に乗る事にしたのだから。


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