“宿屋の怪”


 俺の父方の家系って、昔っから普通なら見えない様なモノが見えるのが多いって話は前にしたっけ?

 聞いてない? あ、そ。

 まあとにかくそんな訳で、向こうに移民してった俺のばーさんなんかはよく見えてたらしいよ。でも逆に親父なんかはからっきしでさ、俺も当然見えなかったんだけど。

 ウソつくなって? ウソじゃないんだよ、昔は全然見えなかったんだって。そりゃまあ、向こうに行くとこっちと違ってイヤでも見えるがな。

 いつから見える様になったのか、はっきりとは覚えてないんだけど、初めてあーこりゃ“何か”に接触したなって自覚出来る様な事態に遭遇した時の事なら覚えてるぜ。

 これがまだ家を出て旅を初めてすぐの話なんだけど、アジア行政区の方の安宿に泊まってたんだよ。その部屋が3階の窓際にあって、その時俺は窓枠に足をのっけて横になってたんだ。ムシ暑かったモンでね。

 そんで夕方になってやっと昼間よりかは過ごし易くなった頃、いきなり外へ引っ張られたんだ。それまで気持ち良くウトウトしてた所へソレだから流石にビビったけど、慌てて手を延ばして何とか雨樋に掴まる事が出来た。

 当然周りは大騒ぎだよ。下の狭くて小汚い路地にはやじ馬が集まるわ、隣や向かいの連中が何事かっつってこっち見て指差してるわ、とりあえず俺の叫びを聞きつけた宿の連中に引き上げてもらって事無きを得たけど、足首を見たら“何か”の手形がくっきり付いてたんだよ。丁度掴む形でな。

 この手形の主が俺を外へ引っ張ったのは確かだろう。ただ、その大きさが問題だった。一応指は5本あるんだけど、手そのもののサイズが人間にしては大きすぎるんだ。勿論宿の連中は不気味がるし、俺だってコレが何のモノなのか分からないから気持ち悪かった。結局、さっさとそこを引き払ったよ。

 “それ”の正体は分かったのかって? んなワケねーじゃん、そのまま次の国に行っちまったモン。でもさ、後でまたその国に行く機会があってさ、その時にその宿があった所へ行ってみたら、ものの見事に潰れてたよ。

 それって俺がそんな騒ぎ起こしたからじゃ無いか? そこまで知るかよ。

 んな事より、そろそろ持ち場に戻らねーと。息抜きはここまでにして次の作戦に移らないとどやされるぜ。
──EFxx年、内戦中の東欧行政区にてレドリック語る
よんだよ


 originalあとがき?

 topmain menuaboutchallengelinkmail