“僕の姉妹を紹介します”
やあ、僕はロイ。足の早さはちょっと自慢なんだけど、家族や仲間達からは「お前食べ過ぎ」「いい加減ダイエットしろ」ってしょっちゅう言われる。失礼しちゃうよね。
僕は三人きょうだいの真ん中で、そのせいか「間にはさまれてるわりに大変そうじゃないな」なんて言われたりするけど、そんな事は全然無い。上も下も女だからじゃない。どっちも“魔女”だからだ。
そりゃ確かにウチのおじいちゃんは昔あっちこっちでぶいぶい言わせた(らしい)魔道士だったって話だし、母さんはあの大魔女アリス・アンブロージアの再来って言われたほどの術士だったって聞いてるよ(だから術の使えない父さんと結婚する時、おじいちゃんはかなり反対したそうだ)。そんな家系だから僕だってそれなりに術は使えるし(と言っても、ファミリアがいないからまだ術具なしでは発動出来ないんだけど)、当然姉さんや妹だってその才能は僕に負けず劣らずだ。だけど、それが理由じゃないんだ。
まず、姉さんから話そうか。
姉さんの名前はマリー。年は僕より4つ上の20歳。地元のサドボスでは有名な美人で、姉さんがウチの店番をしてる時なんか男の客が入れ替わり立ち替わりでやって来るぐらいだ(でもたいてい何にも買わないで帰るから、商売にならないっておじいちゃんはボヤいてる)。
ぱっと見たカンジではぽーっとしてるっていうかおっとりしてるカンジで、友達やその兄弟とかに言わせれば「自分が守ってやらなきゃ」って思うらしいし、何か頼まれたら喜んで引き受けたくなるそうだ。……実際、姉さんが町へ買い物に行くと、帰ってくる時には決まって町の男連中の誰かが荷物持ちをしている。そして姉さんの「ありがとうございました」のひと言で帰っちゃうんだから、タダ働きもいいところだ。
だけど極め付けはおじいちゃんの防衛術の反動で飛ばされた時。まだ僕より姉さんの方が魔力が強いから、僕が飛ばされたツォロフェロから更に東、ガデイラへ抜けて海を渡った所にあるロングシャンクまで行っちゃってたんだけど、そこで再会した時の姉さんときたら、そこの宿でも最高級の部屋にタダで泊まっていたんだ。
いくら何でも、普通は単なる好意でそんな部屋に泊まらせたりしない。それを「お言葉に甘えてしまって」で済ますどころか、おじいちゃんが欲しがってたのにかこつけて龍の牙まで頼んでたりするんだから、わざとやってるとしか思えない。いやむしろ、あれが全部本気でやっているのならそっちの方がもっと恐い。だって龍の牙を取りに行った人は帰ってこないって話なんだよ? いったいどういう頼み方したんだよ。ていうか、それでも取りに行っちゃった人の方も凄いと思うけど。
そして、妹のジュディなんだけど。
こっちはちょっと年が離れてて、まだ10歳。そのせいか生意気な所もあるけど、まだまだ素直であんまり人を疑わない。
魔法の才能については、あの年でもう3体の使い魔が呼び出せるところをみると、もしかすると僕ら3人の中では1番あるかもしれない。……と言っても、使い魔の方が大きいせいで、はたから見るとどっちが使われてるのか分からないカンジがするんだけどね。
さっきも言ったように、魔法が使えるから魔女と言ってる訳じゃない。じゃあ何が理由かって言うと、これもやっぱりおじいちゃんの防衛術で飛ばされた時の事からなんだ。
再会した時に聞いた、ジュディやジュディと一緒にいたキャッシュさんやゴージュさんの話からすると、魔力の高いジュディより、魔法そのものが使えない父さんの方が遠くに飛ばされていたらしい(だけどせっかく合流出来たってのに、あの剣難峡でモンスターに襲われて谷底に落ちてしまったんだって。……無事だといいんだけど)。そのせいでジュディが僕たち家族を探して集めるようにおじいちゃんから頼まれた訳なんだけど、その時にジュディと一緒にいた2人がどっちも男だって気付いた時、やっぱり血は争えないんだと思ったね。まずはこれが1つめ。
それはそれとしても、ゴージュさんは勘当されて「真人間になって帰ってこい」って訳でジュディと一緒に行くように言われたって話だから、まだいい。キャッシュさんにしても元は騎士だったって話だから、「困っている人を助けるのが辺境騎士の務め」っていうのもその時のクセが抜けてないって事で分かるとしよう。それにいくらジュディが術を使えるからって言っても、1人では樹海すら通り抜けられたかどうかも分からない。むしろそういう意味では、戦闘経験のあるキャッシュさんの力を借りられたのは(僕らにとっても)すごくラッキーな事だったと思う。
……だけど、船で会ったヌアージさん。確かに、その時僕らの先頭にいたのはジュディだった。階段をたったか駆け上がって、僕らの方を振り向いて「早く早く」とか言ってせかしてて、それで前を見ていなかったんだからぶつかっちゃったのは当たり前って言うかしょうがない。それにクライドって人の放った使い魔のせいで船の中にモンスターがうろついてる状態だったから、危険になっていたのは本当だ。
だけどさ、ぶつかって転びそうになったジュディを支えてやってさ、いきなり「かわいいお嬢ちゃん、私が君を護ってあげよう」って言うのは流石にどうかと思う。ゴージュさんは速攻でツッコミを入れてたし、あのキャッシュさんでさえ茫然と固まっていたのを僕は忘れない。なのにジュディのヤツときたら、「アリガトウ」って言って本当にそのまま使い魔が化けたモンスターを倒すまでの間手伝わせたんだ。……そう、これが2つめの理由。
結局その後、ヌアージさんとはさまよえる島に近付きすぎた船がヴァフトームに流れ着いたせいで、改めて目的地のロングシャンクにたどり着くまで一緒にいたんだけど(ヌアージさんは運び屋で、その為にロングシャンクに行こうとしてたらしい)、正直、もう少し疑う事を覚えた方がいいと思う。ていうか、まるっきり疑ってないにしても、このまま行けば間違いなく姉さんそのままの、ヘタするとそれ以上の「魔女」になるんじゃないかって気がしてならない。
これで、僕の姉妹がどれだけ危険な「魔女」かって事が分かってもらえたと思う。
え、お前もそんなに変わらないだろうって? そんな事無いよ、だって僕なら何かしてもらう時はタダでって事はしないもん。そういう事じゃない? 食べ物さえ出せば何にでも付いて行くだろうって? だからそんな事無いってば。野盗の仲間に入ってたのだって、本当におなかが空いててしょうがなかったからだし。だいたい僕は人よりちょっと食べるのが好きなだけで、太ってなんかいないってば。ほんと、失礼しちゃうよなー、もう。
end
UNLIMITED:SaGa/あとがき?
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