077.歪む空間


“passing through”


 エリカとザインが帰る頃には、時計は10時を回っていた。
 ホテルの方は大丈夫なのかと尋ねると、
「ザインの術を使えばあっという間」
 ……と言う答えが返ってきた。それでいいのかと清麿はツッコミたくなったが、エリカの性格からして不毛なのが目に見えていたのでやめた。
 しかし幾ら夜とは言え、人目に付かない所で術を使うと言うので、清麿は近所の公園まで送る事にした。但しガッシュは眠そうだったので、家に置いて行く。
 歩きながら、清麿はエリカの顔を見てからずっと気になっていた事を口にした。
「……人間と魔物の顔がそっくりって事もあるんだな」
「そーなのよ! だから初めて会った時はびっくりしたわー」
「……俺も驚いた」
 陽気に応えるエリカに対して、ザインはぼそりと呟くように言う。取り立ててザインが陰気と言う訳では無いが、とにかくエリカの明るさがやたら目に付く所為か、その影になって目立たなくなっているのは確かだ。と言うより、ここまで魔物の方が目立たないコンビと言うのは初めてだ。
 清麿はザインに向かって言った。
「……あんた、もしかして相当振り回されてるんじゃないか?」
「……その分力はあるから、術の発動には困らないけどな」
 しかしその目はあらぬ方向を見ていた。エリカはそんなザインの首に腕を回すと、楽しそうになでくり回した。
「あーもー照れちゃってかわいいなあ! 人間だったらこのまま養子にしたいぐらいだよッ」
「だから諦めろって。その代わりに色々手伝ってやるから」
「これであんたが操作してる時に何が起きてるのか観測出来ればいいのに」
 ──やっぱり、今の技術じゃ魔物の術の解析が出来ないんだな。
 エリカの言葉を聞いて、清麿はそう思った。そもそも魔力すら観測出来ないのだから当然かも知れない。
 そんな事を考えながら、もう1つ気になっていた事を清麿は聞いた。
「そういやあんたらって、他の魔物に襲われた時はどうしてるんだ?」
 イギリスと言えばガッシュが襲われて記憶を奪われた場所である。実際に行った時ですら、積極的に他の魔物を探すタイプのコンビと遭遇している。そんな中で、今までどうやって生き延びてきたのか。
「基本的には、俺が操作してヨーロッパから離れた人のいなさそうな所に放り出してる」
 答えたのはザインだった。そしてエリカが続ける。
「そうは言っても、あんまり攻撃的な相手だったら、君にやったみたいに本だけ奪って燃やすけどね。まさかこんな理由でライター持ち歩く事になるなんて思わなかったわー」
 けろりとして言うエリカのセリフに、清麿は心の中で胸をなで下ろした。──あの時燃やされなくて、良かった。
「でも基本的には、本は燃やさない様にしてるんだよ? むしろ私としては出来る限り長引かせたいんだ」
「はあ?」
 しかしそれに続く予想外の言葉に、清麿は驚きの声を挙げた。そしてザインに問う。
「ちょっと待てよ、お前はそれでいいのか?」
「俺は別に王を目指してる訳じゃ無い」
 だが淡々と、ザインは答えた。
「だからわざわざ戦おうとも思わない。幸いと言うか、俺の力は敵を追い払うのに向いてるし、むしろ俺が手伝う事で、エリカの研究が進むならそれでいい」
「大体ザインと出会って4ヶ月かそこらで、100人いたのがもう残り70人になったんだよ? それを考えたら、もう半分以下に減っていてもおかしくないじゃない」
 何より、エリカはパートナーである以前に学者だった。故に自らの探求心の赴くままに、出来る限りザインの能力の仕組みを解明しようとしている。そこから突破口を見出す為に。
 だが先程の“養子にしたい”発言からすると、長引かせたい理由はそれだけでは無い様に清麿には思えた。でなければ清麿を自分の研究に誘おうとした、あれらのセリフは出て来ないだろう。
 そして公園に着くと、エリカは自分のメールアドレスを書いた紙を渡しながら言った。
「私の研究についてもっと知りたかったらそこにメールしてよ。幾らでも教えてあげるからさ」
「ああ、そうさせてもらうよ」
「また会えるかどうか分からないけど、頑張れよ」
「……ああ」
 そう言って右手を出すザインと、清麿は握手を交わす。
 何故か、何かを託された気がした。

 …………

 そんな長い午後から1か月と経たずして、清麿の元にエリカから1通のメールが届いた。
 そこにはただひと言、
“無念”
 と記されていた。
end
よんだよ


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 只今挑戦中あとがき?

 金色のガッシュ!!

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